彰の気まぐれ日記:Akira Note

追悼:Jack DeJohnette

10月26日。ジャズ界の巨星ドラマーのJack DeJohnetteが亡くなった。数日前にInstagramに元気そうに自宅でくつろぐ姿が上げられていたばかりだというのに。。
うっ血性心不全ということで突然の事だったのだろう。享年83歳。
ご冥福をお祈りします。

尊敬し、大好きなドラマーでした。Jack DeJohnette氏のフリークで演奏しているものを全てチェックするというマニアではないのに。
自分が愛聴したアルバムに彼の名前がかなりの確率で入っていたというのが本当のところ。一番聴いた量が多いドラマーであったことは確実だ。だからJack DeJohnetteのドラミング、音楽を構築していく様が自分の中でスタンダード化されているのだなあと
改めて実感しているのだ。

彼が参加しているアルバムは膨大すぎるし共演者も多岐に渡りすぎて全貌は掴めずにいる。ここに完全ではないがディスコグラフィーがあるので、記録の為に載せておきたい。

https://www.discogs.com/ja/artist/238626-Jack-DeJohnette?srsltid=AfmBOorQQpqrt40SYbo-gphhLBT34C_fO8NZ9ArYGoVb5VFha6ZzAl3Q



ジャズに出会って深くのめり込む過程で早くJack DeJohnetteに出会った。
一番最初はBill Evansのアルバム『At The Montreux Jazz Festival』を聴いた時だろう。最初はその凄さは未熟な私には理解できず、単にBill Evansを聴き漁っていた中の1枚に過ぎなかったと思う。

Bill Evans~Eddie Gomez~Jack DeJohnetteという奇跡の面子は数ヶ月しかなくとても貴重だし音楽的に突出していたと気付くのに時間がかかった。

1983年。私が19歳の頃、「Live Under The Sky」というとてつもなく大きなジャズフェスティバルが日本であった。大阪公演はたしかフェスティバルホールで行われた。
Sonny Rollins Special QuartetのメンバーはPat Metheny(gt)
Alphonso Johnson(b)Jack DeJohnette(ds)という今見てもびっくりするようなメンバーだった。そこで繰り広げられたパワフルで華やかなドラミングにドキドキした。凄いバンドだった!!

程なくして運命的なアルバムと出会うことになる。
Keith Jarrett 『Standards vol.1』そしてvol.2そしてもう一つ『Changes』だ。同じ日に3枚ものアルバムを録音し、時間差でリリースされノックアウトされ続けた。
Keith Jarrett~Gary Peacock~Jack DeJohnetteの3人がマジックかの様に紡ぎ出す音楽は新たな目標、憧れの音楽家としての在り方となった。


そして1985年に待望の初来日公演。大阪厚生年金大ホールで生のStandars Trioの演奏に触れたのだった。細かいところまでは覚えていないが、”唖然と”見守るしかできなかった。楽しむというより崇高なものに出会し、平伏すしかなかったというのが正直な感想。
この初来日の東京公演の映像がVideo Artsからリリースされ、自分にとってのバイブルとなったのだ。


こうしてトリオとして3人のミラクルな対話、極めて冒険的かつ繊細な音楽を作るのに必要なことを全てここから学んだと言っても過言ではない。とても個人的な事だが、それくらい今現在でもそう思っている。
このKeith Jarrett Trioの来日公演は、1985年か2013年まで計11回あり、数えてみたところ21回コンサートに行っていた。
Jack Dejohnetteの演奏に生で触れたのはこれが大部分を占める。

そして最も印象に残ってる出来事は、1991年か1992年頃、私が大阪から上京したばかりの頃、原宿に「Keystone Corner」というジャズクラブがあり、Jack DeJohnette Special Editionの公演があり、最終日の2ndステージに行った時のこと。
運良く、ステージの右寄りにドラムセットがあり、最前列のドラムセットの真ん前に座ることが出来た。
Special Editionといえば1980年頃から活動していた彼のリーダーバンドだ。
初期メンバーは、David Murray(ts)Arthur Blythe(as)Peter Warren(b)。オリジナルは革新的でフリーなサウンドだ。Jack DeJohnetteの思い描く音楽が全て詰まっていると言っても過言ではない。
原宿「Keystone Corner」に出演したのは、「Earthwalk」というアルバムがリリーされての来日だったので、Greg Osby(as)Gary Thomas(ts,fl)Michael Cain(p)
Lonnie Plaxico(b)という若手中心のメンバーだった。

ある意味キャッチーで明るくパワフルな音楽だ。喜びが体全体から発せられ「Great Bnad!!」と何度も雄叫びを上げながら全開でドラムを叩きまくる。その左手を見ると
手のひらを負傷してしまったのか、血で真っ赤に染まっている。スティックまでが真っ赤に。その熱演ぶりをこの距離で見ることが出来たのは宝物のような経験だった。
その時の心に残った事は、ここまでパワー全開で叩いても他の楽器の音が全てクリアに聞こえて来ることだった。バスドラムの真ん前にいてもだ。音が綺麗なのだ。

Jack DeJohnetteの真髄はここなのだ。野生の荒々しさ、激しいパワー、インテリジェンス溢れる繊細さ、全てが混在し、全てが飛び抜けているレベル。
そして、自らがピアニストでもあるということ。音楽全体を俯瞰してコントールしながらも聴き手を惹きつけるオーラを放ち続ける。
そして疾走感。どこまでもエレガントである。美しい世界。

様々な参加作品を聴いた。最初に書いたように、印象に残る大好きなアルバムの数々のJack DeJohnette率は5割以上だろう。
・Charles Lloyd「Forest Flower」「Dream Weaver」
・Miles Davis「Bitches Brew」「Live Evil」
・Ornette Coleman「Song X」
・Pat Metheny「80/81」
・Kenny Wheeler「Gnu High」
・Miroslav Vitouš「Infinite Search」
・Lyle Mays「Fictionary 」
・Eliane Elias「Eliane Elias Plays Jobim」
・Gary Peacock「Tales of Another」
etc.

そして忘れちゃいけない、日野皓正さんとのコラボ。
「Transfusion」というアルバムで、Roland Hanna(p)Ron Catter(b)Jack DeJohnette(ds)という唯一無二のメンバーをチョイスした日野さんの采配。
この時、Roland HannaさんとJack DeJohnetteさんは初共演だったらしい。
いたく感激し、日野さんに感謝していたらしい。
このバンドで渋谷のオーチャードホールでライブレコーディングが行われ、
「D-N-A Live in Tokyo」として発表されたが、もちろんコンサートに足を運んだ。
カルテットの演奏はもちろんだが、突発的に起こった日野さんとJackのデュオでの「Up Jumped Spring」の凄まじいインタープレイは記憶に新しい。

とりとめも無くJack DeJohnetteさんへの想いを書いてきたが、いまだに彼のマジカルなプレイとして印象に残っているのが。。。
・Keith Jarrett Standards vol.1「All The Things You Are」
・同じくvol.2における「If I Should Loose You」
でのプレイ。


この2曲でのスイング感、スピード感は数値的な速度は超越した域に達していて、時空を超えたプレイだと思う。All The Things You Areは何度もライブで再現されたが、このスピード感がないのだ。私なりの見解として、Keith Jarrettの1983年当時はオリジナルでフリーな展開の演奏や、ソロでのインプロヴィゼーションを行っていた時期で、突如としてジャズスタンダードばかりを演奏するという企画にジャズ界が驚いたのだ。Keithがジャズの原点回帰!?スタンダードを!?という期待以上のものが現れてきたのだ。Keithのプレイは自由そのものでビバップのイディオム、すなわちジャズ語とは何か違う独自の語り口、歌をスタンダードのフォーム上で行うという風に捉えられる。4ビートに乗せてスイングするというのとは違う次元での演奏だ。3人の新鮮なる対話が影響して、またとない特別なグルーヴ感が出たのだろう。このStandards Trioは結局35年間にも及ぶ活動を行ったのだが、やはり
マンネリ感が出てきたのは否めない。そして、私が言うのは僭越過ぎるにも程があるのだが、KeithはJazz pianistになってきてとても高度なJazz Trioになったのだと思っている。時が経てば変化があるのは世の常であり、Standards Trioも例外では無かった。いや、初期が特別過ぎたのだ。
この2曲の特別すぎる3人の一体感、スピード感はいまだに謎であるし、ドキドキする。

そして、
Keith Jarrett「Standards Live」における「Too Young To Go Steady」という曲だ。これは以前にJazzTokyoというサイトで書いたことなのだが、引用したいと思う。

“キースはバラードのつもりで弾き始めるが、ジャックは最初からスティックでシンバルを鐘の音のように叩く。いつの間にやら喜びのダンスの Groove に、そしてレゲエのフィルから4拍目にクラッシュシンバルのアクセント多用で狂乱のフェスティバルにごく自然に移行して行く。そのままドラムソロになるも、太鼓の祭の儀式は続く。ブリッジからキース、ゲイリーがその流れの中で合流するが、9分10秒辺りでジャックがふと手網を緩めると祭から我に返る三人。そして、最後の8小節のメロディーでこれまでの出来事をしみじみと振り返るバラードになり、安らぎのエンディングを迎えた。これが僕が好きなStandards Trioの演奏の中で1、2を争う。”

このちょっとマニアックな聴き方だが、ミュージシャンとして聴いた場合のこのJack DeJphnetteのプレイは尋常ではない。Keith Jarrett本人も”持っていかれちゃったなあ”と喜んでいたに違いないと確信している。本当に素敵な演奏だ。

このように、Jack DeJonetteのプレイを愛するミュージシャンが沢山いた。だから
こんなにもリスナーとしては彼のプレイを聴き、素晴らしい世界に誘われたのだなあ。

今、もうJack DeJohnetteさんの演奏が聴けなくなって寂しく、悲しいが、少なくとも私は彼のドラミング、世界観から大きな大きな物を頂いたと思っている。
どうもありがとうございました。そしてどうぞ安らかに。

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